『流行歌のイデオロギー』_Posted at 00:18

明治初期からその原初を認められる
「はやりうた」の精神構造を
要領よくまとめている。

「はやりうた」の製作される土壌は
歌手を除いて男社会である。
よって
これらの歌に描き出される
女性の姿は
主体的な意思のない
家社会に囚われた「籠の鳥」に過ぎない。
しかし「あたらしい女」の出現は
歌の中のステレオタイプな女性像に
わずかながらも風穴を開けるきっかけとなった。

本書の
「東京行進曲」(昭和4)と「この太陽」(昭和5)の
指摘は
上記のような私の推測に
説得力のある根拠を指し示してくれた。


それ以外に筆者は
小説「人生劇場」を紹介した上で
興味深い指摘をしている。

「家の制度」に対する郷愁、
あるいは「父親憧憬」ともいうべき
精神機序が認められるが、
この「父親憧憬」は
大正から昭和にかけて広く読まれた
大衆小説の核心の一つである。(p148)

「読まれた」を「歌われた」や「聴かれた」に
「小説」を「歌」に読み替えたとき
現代の演歌で
多くモチーフにされる
股旅ものの性質が垣間見えるのでは。